素材を信じて

素材を信じて

酵母作りは、丁寧に観察すること。
そして、自分が行ってきた経験値に頼らず、まっさらな気持ちで取り組むこと。
思い込みを手放すこと。

一つ一つ、酵母の特徴があるので、比べずに、その素材そのものの声を聴くことが大切だということがわかりました。

松の自家製酵母を初めて育ててみた時のこと

出来上がった松の酵母は、シュワシュワしないし、元気がないので種として失敗してしまったと思い込んでしまいました。
なぜ、そのように思ったかというと、ビンの中の松に付いている気泡がほんの少ししか出ていなかったので、いつも使っているレーズン酵母と比べてしまい、上手く育てることが出来なかったと思ったのです。

冷蔵庫に何日も置きっぱなし・・・
蓋を開けると、かすかにシュッ!という音。

カビもなく、スッとした、酸味のあるよい香り。

決して腐ってはいないのに、ガスの少なさだけで、使えないと決めつけてしまいました。

でもどうしても諦めきれず、松の酵母の液種と小麦粉を混ぜて一晩置いてみたのです。
すると、驚くほど元気にぷくぷくと膨らんでいました。種になったのです。

液種は静かなのに、こんな力を秘めていたんだと胸が熱くなりました。
いつも育てているレーズン酵母と比べていたからこそ見えなくなっていたもの。
観察しきれていなかったこと。
そして、思い込みによって、自分から可能性を閉ざしてしまったことに気づかされました。

同時に、種にする素材によって、こんなにも育ち方もその種の持つ力強さも違うことに気づくことができ、それぞれの酵母液がより愛おしく大切なものとなりました。

レーズンは、糖度が高いため、ガスの発生も早くわかりやすい。
一方、松は、育ち方が静かだからこそ、その違いを理解し、丁寧に観察する目が必要でした。

今回の経験を通して学んだこと。
酵母作りは、丁寧に観察すること。
そして、自分が行ってきた経験値に頼らず、まっさらな気持ちで取り組むこと。
思い込みを手放すこと。

比べずに、その素材そのものの声を聴くことが大切。
酵母と丁寧に向き合い呼応できると、その素材のもつ発酵の仕方や、特徴がわかり、さらに愛着が湧くのです。

するとまっさらな気持ちで次々と新しい酵母作りに挑戦していけるようになりました。

思い込みは、酵母だけではなく、人生の中にもあります。
私にはできない、どうせ無理だと決めつけてしまうと、本当は持っている力や可能性を閉ざしてしまうことになりかねません。

私自身、まだまだ自分よがりな思い込みにとらわれてしまい、落ち込んだりすることがあります。
でも、今は、酵母と向き合うように、自分のやりたいことは何かを深く考えながら人生を進めていけるようにしているところです。

酵母に寄り添うように、自分の心にも寄り添う。
そのように少しずつ歩んでいけたら、きっとパン作りも人生も豊かになっていくに違いありません。

観察し、耳を澄まし、素材の声に寄り添い、自家製酵母の種を作る。
それは、パン作りも心のあり方も豊かにしてくれる時間です。